grenelle165's blog

ふと考え、感じたことをできるだけ素直に綴りたいとおもいます

村上春樹の恋愛短編アンソロジー

村上春樹の恋愛短編小説アンソロジー『恋しくて TEN SELECTED LOVE STORIES』を読みました。

読書メーター」に書ききれなかったので、こちらにそれぞれの感想を。

 

〇愛し合う二人に代わって

報われることがあまりない(と私は経験上そう思います)長年の片思いが、最後に「さらりと」叶うという、とても幸せな作品。諦められない片思いを、相手よりも、運命が救ってくれたという印象。長い片思いを叶えてあげるのは、小説=物語の素敵な役割の一つだと思う。田舎育ちの若者が都会に出たが夢破れて故郷に戻り幼馴染と顔を合わせる、という流れはよくありがちではあるが、親近感が沸く読者も多いのではないか。代理結婚式というのはそれ自体がフィクションだが、モンタナ州でそれが法的に認められていること、さらにイラク戦争によるニーズ増加という世相が重なり、結婚式に切迫感と重みを与えている。

好み度(5段階):☆☆☆☆

 

テレサ

巨漢中学生の片思い。教室で話しかけられず、じっと見つめては目が合いそうになるとそらしてしまう。そして下校の時に後をつける・・・。ミドルティーンの心理描写には感情移入できなかったが、テレサの「飛び出しナイフ」が、やけに地味でリアルな物語の中で唯一、読み手をハッとさせる力を与えてくれる。

好み度:☆☆

 

〇二人の少年と、一人の少女

味わいは「テレサ」に似ているがこちらの方が好き。淡々と進む三角関係。片思いの少年の思いは実を結ず、それ自体は何ということもないが、最後の「赤いペンキ」が強いインパクト ― それは読み手に対してだけでなく、少年にとっても恋が叶う喜び以上の力強い何か ― をもたらしたと思う。大逆転の赤いペンキ。会話がかぎかっこなしの改行で進むのも新鮮。原文はどうなってるんでしょうか。

好み度:☆☆☆

 

〇甘い夢を

恋愛初期の期待と不安、好きだけど相手のことが良くわからない、これから先二人がどうなるのかもよくわからない・・・といった心の揺れが丁寧に描かれていると思う。バスで出会った小説家のインパクトが今一つ。

好み度:☆☆

 

〇L・デパードとアリエット 愛の物語

本アンソロジー中の最高傑作。多分、自分の好みだからだと思うが突出している。もし自分が小説を書くなら、これくらいスケールが大きく、かつ、想像力に訴えかける(行間を生かした)短いものが書けたらよいと思う。二人の愛の物語は、20世紀初頭の、時代の価値観が近代から現代に移り変わる、ギリギリとした摩擦の上に乗っている。第一次大戦も、スペイン風邪も、デパードが被った前近代的な罰も、女性の生きる幅を広げたアリエットの活躍も、すべてこの時代の軋みと無縁ではない。時代と個人が紡ぐ大河小説。小説の長さとスケールは関係ない。二人は引き裂かれた後、決して会うことはなかったが、魂は常に一緒だった。物語のクライマックスは悲劇だが、その後の長い年月をかけたハッピーエンディング。究極的にポジティブな愛の物語。これだけ濃密なのに短いのも忙しい読み手には本当に助かります。

好み度:☆☆☆☆☆

 

〇薄暗い運命

とにかく、人を愛することの救いのなさ、ある意味での無駄さが示されていると思う。好きではないが、無視はできない作品。

好み度:☆☆

 

〇ジャック・ランダ・ホテル

うーん、ノーベル賞作家で短編の名手による恋愛上級者向け物語とはいうが、正直良さが全くわからない。恋愛上級者がというより、力のある小説家がプロの視点からみた良い作品なのでしょう。

好み度:☆

 

〇恋と水素

ますます良さが分からない。大人の男同士の同性愛@飛行船という設定が、コミカルさ、軽妙さを与えているが、これが男女の恋愛だったら何も面白くなかったし、救いもなかっただろう。そして最後は空中で文字通り飛行船が大爆発。読後感はとても良くない。

好み度:判定不能

 

モントリオールの恋人

むむ。これも特段揺さぶられなかった。不倫の大人の恋、別れ間際の心理描写。緻密に描かれてはいるが、設定以外にどこが大人の恋なのか、だから何だという感じ。しつこく語られる、アメリカ人とカナダ人の気質の違いもちょっと退屈。恐らくカナダ人気質の方が日本人一般(少なくとも自分)には合うんでしょう。モントリオールにはいつか行ってみたいです。

好み度:☆

 

恋するザムザ

あー、申し訳ありませんが、正直、面白くなかった。軽い。自家撞着。「多崎つくる」を読んだときにも思ったが、最近の春樹作品には以前のように心を掴まれることはない。モチーフや技巧は同じか、さらに洗練されている部分はあるのかもしれないが、80年代から90年代の諸作品、特に「国境の南、太陽の西」を読んだ時の、すべてを丸ごと持っていかれる感覚、すべてのディテールが、比喩が、読み手の中の何か大事なものを語っている、魂のどこかに直接触れられている、そういった親密さが消えてしまったような気がする。どうなんでしょう?

好み度:(「恋と水素」とは違う意味で)判定不能

 

色々率直に書かせていただきましたが、こういう形で、アメリカ中心ですが、世界の恋愛小説を色々と味わえたのは楽しかったです。訳者が言うように、意外なくらい、ストレートな作品が多かったなと。そして、自分がそういうものが好きなことも良く分かりました。多分、大人の恋愛を知らないんでしょうね。それでも、全く、構いませんが笑

最近の村上春樹は『走ることについて・・・』や『職業としての小説家』など、自分自身を率直に語る文章のほうが、ぐっと、心に響きます。こういう生き方をしてみよう、できそうなものを取り入れてみようと素直に思います。

 

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ちなみに、この本は、東京からドバイ経由、アフリカ行きの長い機内で一気に読みました。そして、残りの時間で『君の名は』を見ました。

一時期流行った「人の入れ替わり」に、時空の超越、日本人の生死観といったスピリチュアルな要素が加わり、とても面白かった。ただ、最後に二人をすれ違わせる必要は全くなかったと思いますが・・・