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grenelle165's blog

ふと考え、感じたことをできるだけ素直に綴りたいとおもいます

平家物語、哀惜、そして鎮魂

平家物語」現代語訳(河出書房新社刊)を読み終えました。初めての通読。

(帯の絵がとても良いです!はがきも挟まっています)

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最初から最後まで、哀切極まりない物語でした。累々と連なる、別離。夫が、妻が、子が、兄弟が、次々と愛する人のもとから去っていく。その悲しさ、痛ましさ。

 

前半は清盛に疎まれた者、平家に敵対した者が、清盛死後の後半は、木曽が、そして平家一門が、ひとり、ひとり、闇の中に、ふっと吸い込まれていきます。

 

血しぶきが散るような壮絶な死であっても、ふっ、と虚空に吸い込まれるようなイメージで描かれている、語られている、そんな印象をうけました。

竹内浩三『骨のうたう』の一節、「ひょんと死ぬるや・消ゆるや」が重なりました。時代は作品形態は全く違いますが、表現の方向性は共通していると思います。日本人の「死」に対する感受性の一つのあらわれかもしれません)

竹内浩三 骨のうたう(原型)

 

そして、それぞれが死の間際に残す圧倒的な余韻と存在感。この世に生きた、その証。一人、ひとりと死んでゆく、その痛ましさがひしひしと胸に迫り、なかなか、読み進められません。時には目頭がじわりと熱くなるほどでした。

 

権力を手中にしておごり高ぶった平家。背く者たちに非情の限りを尽くし、貴族社会での栄達の中に鍛錬を忘れ、その間に力をつけた源氏に追い落とされて、たった20年ほど、二世代の輝きの果てに西海に散る。平家の滅亡は、そんな自業自得の物語として広く解説されてきました。

 

それはそれで、その通りなのでしょう。しかし、すべて読み通すと、物語の軸は、平家への、その他敗れ去った者への鎮魂、惜別の思いを強く感じます。

 

そして、源氏中心の視点にはない新たな発見がたくさんあります。

 

平清盛の死後、一つのエピソードが語られます。それは、大輪田の泊の築港に際して、人柱に反対したことです。これは、一般にはあまり知られた話ではないでしょう(12年の大河ドラマ平清盛」では描かれていたかもしれません。あまり記憶にありませんが・・・)。

 

平家物語での(とりあえずの)悪役ぶりはさておき、貿易への関心などの開明性や、平治の乱で頼朝の命を助けるなど冷徹になりきれない性格も広く知られています。これはその代表例ともいうべきものでしょう。

 

物語でも、平家一門の悲劇は清盛の悪行が招いたものだと繰り返し語られますが、実は著者(語り手)も聞き手も、悪役清盛というのは、実像はさておき、物語を語る上で与えられた役割であったことを意識して語り継いできたのではないかと思います。

 

なにより、平家一門が、決して一枚岩とはいえないまでも(平家物語でも、都落ちに際しての頼盛の離脱や、小松一門と言われた重盛の子孫に向けられた、本家からの懐疑の目線が描かれています)、殺しあうことなく、最後まで苦楽を、運命を共にしたこと(その後の残党狩りで命を落とす一門も含め)。

 

これは、猜疑心が重なり、兄弟、親子同士で殺しあって嫡流が途絶えた源氏とは対照的のように思います。

 

そして、命のやり取りをしあうぎりぎりの戦場にあっても、詩歌や管弦、つまり、心を豊かにするものを常に身にまとった穏やかな心。確かに、これでは屈強な東国武士にはかなうはずもありませんが、忠度も、敦盛も、それ以外の公達も、みな勇敢に戦い、その死は、打ち取った者の、敵味方の熱い涙を誘いました。

 

一方の源氏は、功名心にはやった卑怯なふるまいの数々・・・越中前司盛俊をだまし討ち、忠度が念仏を唱えている間に容赦なく首を落とす、那須与一のエピソードの直後に、喝采して踊る平家の舞人を射殺す、などなど・・・かなり最低です(怒)。

 

義経の電光石火の奇襲作戦も、戦上手の面目躍如にふさわしいのですが、それほど魅力的には思えませんでした。都大路で一門の首を引き回すとか、壇ノ浦で船頭を射殺すとかも感心できませんし・・・

 

一方で、平重盛の圧倒的な人格者ぶり・・・これもほぼ創作といわれていますが(大河ドラマ平清盛」で描かれていたように、スケールの大きい父と後白河院の間で神経をすり減らした「マジメな人」という評価が定説のようです)、あそこまで神がかって描かれると、自分も手本にしたくなるくらいですね。

 

平家贔屓が過ぎてお恥ずかしいですが、とにかく、語り手の意識の軸は、明らかに平家一門と、消えていった人々への哀惜と鎮魂にあることは間違いないと思います。誰も、語るものがいなくなった一門に代わり、語り、伝える。八百年の時を超えて語り継ぐ。

 

平家は歴史的にも、貴族政治と武家政権の過渡期に位置し、大陸との交易を軸に置く経済政策など、とても開明的、先進的であったと言われています。

 

その内実は全く知りませんが、平家物語に込められた一族への哀惜の念は、短くとも栄華を極めた殿上人、公達への惜別というだけでなく、平氏政権によってつぼみが開きかけ、散ってしまった、実現しなかった新しい時代の予感のようなものを惜しむ気持ちが含まれているような気がしてなりません。

 

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