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grenelle165's blog

ふと考え、感じたことをできるだけ素直に綴りたいとおもいます

『嵐が丘』~夏に似つかわしくない読書

読書

先週、21年ぶりに、エミリ・ブロンテの『嵐が丘』を読みました。

実家の本棚を少し整理したときに出てきた古い文庫本を、ふと手に取って読み始め、そのまま数日かけて読み切ったという感じです。たぶん、現実逃避だったのだと思います(苦笑)。

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ご存じの通り、この物語は「嵐が丘」の女中だったネリが、スラッシュクロス屋敷の借家人であるロックウッドに、子供時代から虐げられた上に愛するキャサリンと引き離されたヒースクリフの「復讐譚」の一部始終を語るという形で進みます。今回読んでいて、昔、学生時代に感想を話合った同級生の女の子(この子は帰国子女で、原文で読んだそうです)が、「私はネリ(物語の語り手の家政婦)は本当に冷たいと思う」と言っていたことを思い出しました。

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(95年の夏に滞在した英北部 Newcastle upon Tyne の本屋で買ったペーパーバック版です。その時は「俺も英語で読もう!」と勇み立ったのですが、それから20年、まだ!?1ページも読んでません・・・)

そのことを思い出し、ネリの人とがら(視点)を気にしながら読んだのですが、ところどころに主人公たちの心根を無視するような言動はあるものの、他の登場人物の胸焼けがするような!?激情が半端ないので、むしろ、ネリが口を開くと読み手としてもホッとするところがあります。しかも、主人に仕える女中の立場としては致し方ないというか、旧家と片田舎の濃密でありながら「何でもあり」の異常な人間関係の中で、いわゆる「社会的な良識」を一応体現する存在でもあり、多少意地悪ではあっても、そこまで冷たいとまでは(昔と同じく)思えませんでした。

今回、ひさびさに一読してみて、「嵐が丘」の主人が孤児のヒースクリフを引き取ってこの物語が始まり、最後は、ヒースクリフに苛め抜かれたヘヤトンとキャサリンが一緒になるという、「健やかな」愛で挟まれた物語(もちろんその間には、ヒースクリフ、キャサリン母、エドガーの爪で互いを引っ掻きあうような愛の物語があるのですが)の構成そのものが印象に残りました。

それにしても、『嵐が丘』は同時代人にはとても不評だったようで、評価されて「英語文学における三大悲劇」とまで言われるようになったのは著者の死後、半世紀以上たった20世紀に入ってからとのことです。岩波文庫版には、姉で『ジェイン・エア』を著したシャーロットによるエミリの「略伝」が載っているのですが(エミリはシャーロットより前に亡くなっています)、この「略伝」に表れたシャーロットのエミリに対する愛情と、エミリの才能に対する賞賛ぶりはとても深くて印象的です。妹のつつましい生涯をありのままに語り、確かにこの作品は荒削りで一般に受け入れられにくい側面もあるとしつつも、妹の人生とこの作品の魅力を、堂々と、誇らしげに伝えています。愛情にあふれた素晴らしい文章です。

あと、この新潮文庫版は、シャーロック・ホームズの翻訳でも有名な阿部知二氏によるものですが、50年以上前に訳されたものとは思えないくらい、平易で、読みやすい訳でした。今は他の訳者による新版も出ているようですので、読み比べてみても面白いかもしれません。

以上、いろいろ書きましたが、冷静に考えると、夏、しかもスーパー猛暑に似つかわしくない読書だったことは間違いないですね・・・

物語の舞台になった英国ヨークシャーには行ったことはありませんが、私にとっての初めての海外は英国でしたし、しかも初めて訪れたのも、ヨークシャーの南側、ダービシャー地方にある国立公園、Peak District の荒野(Moor)でした。寒風吹きすさぶ2月でしたので、ヒースの花には出会えませんでしたが、それでも、淡い緑の丘がうねうねと続く、骨太でありながらどこかに人の涙を宿したような感じの風景は今でも鮮明に心に残っています。

メモによると、Edaleという村の近くでした。

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英国の田舎って本当にいいですね。ロンドンも93年以来、何度も訪れて、とても魅力的な町と思いますが、英国の真の魅力は何といっても田舎。人も風景も、あの国の礎は常にCountrysideにあると思います。大なり小なりどの国にも当てはまることかもしれませんが、特に英国に関しては、どちらかというと、都市より田舎、若者より年配の方々、最新のものより古き良きものの穏やかさと深みがいつも心に響く気がします。

いつかまた、ヨークシャーのMoorも訪れてみたいと思います。

 

 阿部知二訳はもう絶版なんでしょうかね。  

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

 

 

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)

嵐が丘〈下〉 (岩波文庫)